読書感想文:『友人キャラは大変ですか?』1巻【書評・ラノベ】

『友人キャラは大変ですか?』1巻はどんなラノベ?

ガガガ文庫公式Twitterより引用
あらすじ

生粋の友人キャラを自負する小林一郎が、生粋の主人公キャラである龍牙と出会う。龍牙を支える最高の友人キャラであろうとする小林一郎だったが、龍牙には大きな秘密があった。

鮪田スコア

93点 ★★★★★★★★★☆

『友人キャラは大変ですか?』1巻を読んでみた!(※ネタばれあり)

「メタ発言」なんて言葉がありますが、言ってみれば今作の主人公である小林くんのモノローグは全部メタ発言です。そこで、この1巻で使われているメタ系用語の使用回数を調べてランキングにしてみました。
5位から、カウントダウン形式で発表します。

『友人キャラは大変ですか?』1巻におけるメタ系語の使用回数ランキング

第5位「イベント
【使用回数】12
【使用例】
「当イベントの趣旨が、全く読めない」「決して、無意味なイベントじゃなかったのだ」

5位「イベント」でした。「イベント」という語は、1巻の中で12回使われています。
小林くんにしてみれば、事件修行デート「イベント」なんです。しかも、上の使用例で挙げたとおり、発生したイベントには「趣旨」「意味」があるべきと考えています。

第4位「ストーリー
【使用回数】19
【使用例】
「俺だけが知っておく分にはストーリーに支障もないはず」「うっかりメインストーリーに関わるようなドジを踏むこともないだろう」

4位「ストーリー」でした。19回使用されています。
19回のうち、「メインストーリー」という語が12回を占めています。
世界は大きな「ストーリー」の流れに沿って動いていると小林くんは考えていて、現状の展開が「メインストーリー」なのか、そうじゃないのかにも常に気を配っています。

第3位「パート
【使用回数】20
【使用例】
「俺が活躍すべきは、あくまでも日常パート」「おバカ友人との日常パートとは、面白おかしいものでなければならない」

3位「パート」で、使用回数は20回。そのうち「日常パート」11回「戦闘パート」6回を占めています。小林くんは、いわゆる「コミカルなシチュエーション」と「シリアスなシチュエーション」の線引きを明確にしておきたいようで、それらが混ざることを嫌います

第2位「フラグ
【使用回数】21
【使用例】
「勝手に絡んでフラグでも立てたら大事になる」
「あの言葉がフラグになってしまった感は否めない」

2位「フラグ」で、21回使用されています。
起きることには全て、予兆伏線があると考えている小林くんは、それらの「フラグ」がどこで立ったのかを注視しています。

第1位「ポジション
【使用回数】25
【使用例】
「最悪、今までとポジションが変わってしまう恐れがある」
「この『ヒロインたちに弄られる』というポジションは、主人公のみに許された特権だ」

栄えある1位は「ポジション」でした。じつに25回使用されています。
小林くんは、ストーリーイベントを気にしていますが、何よりもその中における自身のポジションを気にしているということが使用回数に現れています。
たとえ、ストーリーが想定外の方向に進もうと、その中で自分がいかに友人キャラというポジションにふさわしい言動をできるかを考えているのです。ちなみに、類語である「立ち位置」という語も6回使用されています。

ランキング外にも、「ヒロイン枠」「テコ入れ」「キャラがブレる」「クライマックスの盛り上げ方」など冴えたメタ用語満載の本作でした。
テンプレやメタ視点をネタにしたラノベはあっても、ここまで詰め込んだラノベにはびっくりです。読んでて、とんでもないことを考える作家さんがいるもんだなと、心から感心してしまいました。

ふつう思いついてもこういうふうに書けないと思います。
テンプレやメタ視点を題材にすると、ついつい作者さんがマニアックな知識をひけらかしたくなりがちじゃないですか。この作者さんにはそういうのがぜんぜん無かったです。ひたすら楽しくてわかりやすくて、サービス精神半端ない作家さんだなと思いました。

そもそも、メタ視点の主人公っていう突拍子もない設定を、読者にすんなり理解させてくれる時点ですごいです。たとえば、映画『インセプション』には、夢の中の夢みたいな複雑な設定が出てくるけど、視聴者はそれをすんなり理解してストーリーに夢中になれますよね。あれに似た凄みをこのラノベにも感じました。
そして、そんな変化球の設定を用いながら、ちゃんと無双やハーレムといったラノベの楽しさに収束しているというのも半端ないです。

ラノベやアニメのテンプレを丁寧に分析して体系化した作者さんにしか書けないであろう異色の快作でした。