読書感想文:『クラスの大嫌いな女子と結婚することになった』1巻【書評・ラノベ】

2023年1月23日

『クラスの大嫌いな女子と結婚することになった』1巻はどんなラノベ?

MF文庫J公式サイトより引用
あらすじ

祖父の命令で、クラスの大嫌いな女子と結婚することになってしまい、クラスメイトたちには内緒の新婚生活が始まった。

鮪田スコア

87点 ★★★★★★★★☆☆

『クラスの大嫌いな女子と結婚することになった』1巻を読んでみた!(※ネタばれあり

現代の自由恋愛って大変じゃないですか。
日本でも昔、親が子供の結婚を決めていた時代があったわけです。そんな時代だったからこそ、珍しかった自由恋愛が輝いてたんだと思うんです。
でも現代では、自由恋愛のほうが普通になってしまったので、結婚するためにはみんなあのモヤモヤだの告白だのデートだのプロポーズだのを「普通のこと」としてやらなくちゃいけなくなってしまったんですよね。

そこでこのラノベですよ!
モヤモヤとか告白とか、そういう面倒なことを全部すっ飛ばして、高校生の男女が同じ家に押し込まれ、同じ布団で寝るように命令され、親も了承していて、性行為にも理解があって、勝手に婚姻届まで出されてしまう!
こうやって全部強制的にセッティングされちゃうのって、ある意味では快感だと思うんです。自由へのアンチテーゼっていうか、自由恋愛の現代だからこそ、強制されることに非日常のワクワク感が生まれるってこともあるかもと、この本を読んで考えさせられた私です。独身です。

MF文庫J公式サイトより引用

シチュエーション設定からして面白いんですが、中盤以降どんどん面白い。
なにが面白いって、「男女が一緒に住むこと」のファンタジーじゃなく、まず「初めて他人と住むこと」の現実を描写しているんですよね。これがひたすらリアルで痛々しい。

「自宅にいても落ち着かないし、眠りも浅い」
「相手のやることなすことが気に障る」
「朝、隣に朱音が寝ていないことに安堵する」


激しくうなずきたくなる同居あるある。
弱り切った朱音ちゃんに、親友の陽鞠ちゃんが伝えたアドバイスが良かった。

「相手を認めて、話を聞く。なにを考えているのか。どうして怒っているのか」

至言。
こういう普通のことをわかりやすくドラマチックに書けるってすごい。
そして夫婦での話し合い。最悪の状況から、本人たちで悩んで考えて、折り合いをつけたり譲歩したりして、少しずつ改善される様子は、読んでいて快感でした。

二人が話し合った内容ってすごく普通のことです。

「感謝の気持ちを忘れない」
「ありがとうと言い合う」
「料理を美味しいと言う」


下手したら道徳の教科書みたいなことですよね。なのに読んでいて、こういう普通のことを二人が話し合っていることがすごく心地よく感じられました。つまり、ちゃんとラノベのカタルシスが生まれてるんです!
繰り返すけど、こういうふうに普通の大事なことを、シンプルな言葉でコミカルに紡ぐことができる作者さんは素敵だなと思いました。

後半は、二人の関係がどんどん良くなっていく逆転カタルシス連発で、それはもう加速度的に面白いです。
ゲームを一緒にやるエピソードでの「世界が引っ繰り返っても、私がゲームなんかにハマるわけないわ」という、様式美のような「即落ちフラグ芸」可笑しいです。

そして、最後は風邪のエピソードでした。
最後に風邪を持ってくるのって最高です。なぜなら、風邪のときはひとりじゃないことがとてもありがたいからです。
読み終わったあと、「自分も周りに優しくありたい」と思ってしまう素敵なお話でした。