ラブコメ版の視点逆転?:『負けヒロインが多すぎる!』1巻 読書感想文【書評・ラノベ】

2023年3月17日

『負けヒロインが多すぎる!』1巻はどんなラノベ?

『負けヒロインが多すぎる』公式Twitter(@makeine0317)より引用
あらすじ

陰キャぼっちの温水くんは、クラスメイトの美少女・八奈見さんが振られているところを、たまたま目撃してしまう。なりゆきで、八奈見さんの相談に乗るうちに、陸上部の焼塩檸檬、文芸部の小鞠知花といった「負けヒロイン」たちが、彼の周りに集まってくる。

鮪田スコア

85点 ★★★★★★★★☆☆



『負けヒロインが多すぎる!』1巻を読んでみた!(※ネタばれ無し)

ラブコメ版「視点逆転」という天才的発想

『金田一少年』のスピンオフで、『犯人たちの事件簿』っていうマンガがあるじゃないですか。

↓これです

この『犯人たちの事件簿』が、ミステリーの視点逆転なら、
『負けヒロインが多すぎる』は、いわばラブコメ版の視点逆転です。

「振られた幼なじみヒロイン」側の視点で、正ヒロインの「あーっ!あんたはあの時の痴漢男っ!」を観測できるという天才の発想です。

「弱さ」が魅力に転化したヒロイン像

1巻に登場する、3人の負けヒロイン。

八奈見さん
焼塩さん
小鞠ちゃん
ガガガ文庫公式サイトより引用

隙が無い美女というのは、かえって萌えないものですよね。
「隙」「弱さ」が見えてこそ、読者はキャラクターに親しみを持ちます。
つまり「負けヒロイン」とは、恋愛に敗れることで「弱さ」を備え、それが魅力に転化したヒロイン像です。
すごい発明です!

ヒロインたちの愚痴を受け止める相手として、陰キャぼっちの主人公がぴたりとハマっている点も見逃せません。
言ってみれば、懺悔室の神父さんが「交友関係が広いおしゃべりな陽キャ」じゃ困るわけです。

敗北による精神的不安定さを吐き出す相手として陰キャぼっちは適任で、それを本能的に感じ取った負けヒロインたちが集まって来るという、変わったハーレム構造です。
静かで優しいハーレムです。



その人の本質は、負けたときに出る?

恋愛に限らず、スポーツでも勝負ごとでも、
人の価値は、勝っているときよりも、負けたときの態度にこそ表出すると言います。

負けて心を乱し、内なる醜さを露わにしてしまう人もいるでしょう。
一方で、負けから這い上がる姿っていうのは美しいです。

スポーツなら、「もっと何かできたんじゃないか?」と後悔することもできるかもしれません。
でも、努力ではどうにもならない部分が多い恋愛において、勝ち負けの明暗は残酷です。

だからこそ、しんどい中で剥き出しの自分を見つめ、心に折り合いをつけて、どん底から立ち上がろうとする、この物語のヒロインたちはほんとにかっこいいです!



まとめ

『負けヒロインが多すぎる!』が描く、負けの美学についての考察でした。

残酷な敗北は、人の裏側を露わにし、
でも、裏側にこそ、その人の真価が宿ります。

将棋の駒だって、裏返したほうが強い!