読書感想文:『誰かこの状況を説明してください!』1巻【書評・ラノベ】

2023年2月3日

『誰かこの状況を説明してください!』1巻はどんなラノベ?

アリアンローズ公式サイトより引用
あらすじ

貧乏貴族の娘が、名門公爵家から縁談を持ちかけられる。しかし、公爵が求めていたのは、互いに干渉しない「お飾りの妻」だった。

鮪田スコア

88点 ★★★★★★★★☆☆

『誰かこの状況を説明してください!』1巻を読んでみた!(※ネタばれあり)

これはいい無双。
異世界転生じゃない、特別な魔法もスキルも持たない主人公ヴィオラちゃんだけど、圧倒的「ラノベ主人公」で、無双の快感がぎっしり詰まったラノベでした。たまらない面白さ。読んでて爽快!
てことで、なんでこのラノベはこんなに気持ちいいのか4つのポイントで考察してみました。

ポイントの1つ目は、「主人公がやったことが何ひとつ無駄にならない」ことです。

・清貧環境で培った実用的生活スキル
・リサイクルの精神で先代の奥さんが使っていた家具を復活させる
・賄いのおしゃべりから食事に郷土料理を取り入れる
・雨の日にダンス特訓とエステ

こういうのが全部、後で気持ちよく回収されて爽快。ただ回収されるんじゃなくて、本人無自覚で回収が発動+ぜんぶ効果3倍増しくらいで回収されるのがまさにラノベ主人公。こういうのが読みたいんですよ!

ポイントの2つ目は、「変化を実感できる」ことです。

・どんどん周囲に味方が増えていく
・どんどんお屋敷が明るくなっていく
・どんどんヴィオラ自身が綺麗になっていく

こういう変化って、例えばRPGなら数字でレベルアップを実感できるけど、作家さんっていうのは文章で読者に変化を実感させるんですよね。どうしてこんな文章書けるの。
しかもこのお話の場合、一瞬で何かが変わるシーンじゃなく、読み進める中でじょじょに変化を実感できる文章なのがすごいなと思うんです。作家さんというお仕事を尊敬します。

ポイントの3つ目は、「周囲のリアクション芸」です。
お屋敷の使用人たち、義父母たち、社交界の人たち。ヴィオラちゃんに関わるみんな無双に対するリアクションがキレッキレ。無双は目撃されてこそですね。とくに義父母訪問エピソードは、止まらないヴィオラ無双とお義母さんのリアクション芸で痛快さの集中砲火。ギモヂイイッ

ポイントの4つ目は、「旦那様の当て馬っぷり」です。
このラノベはすごく珍しいキャラ設定になっていて、恋愛対象たる旦那様のサーシスを、なかなかのクズとして描いてるんですよね。たしかに乙女ゲームの王子様キャラというのは、ギャップ萌え要素としての「鬼畜」「腹黒」属性を装備していたりしがちですが、サーシスの場合そういうのじゃなく、根っこのところで誠実さに欠けてるじゃないですか。正直「2巻以降で挽回できるの?」って心配になるくらいの描かれ方なんですが、少なくともこの1巻では、ヴィオラちゃんの当て馬として非常によく機能していたと言わざるをえません!
ヴィオラちゃんがお屋敷に与える良い影響を使用人たちがあれだけ喜んでいるのは、旦那様に失望している反動っていうのも大きいですよね。この構図が、相対的にますますヴィオラ無双を引き立てて、周囲のヴィオラちゃん推しを読者が「自然なこと」だと感じられる説得力になってました。飾らず言うと、比較対象のクズがいると、主人公の無双が引き立ちますね!

ということで、これら4つのポイントを押さえた相乗効果が、とてつもない無双ヒロインを生み出してしまった本作でした。
少女漫画の定番である「庶民感覚を持った主人公」に分類されるヴィオラちゃんですが、ここまで対象への恋情が無くてサバサバしたキャラって痛快で素敵ですね。いっそラブコメですらない清々しさでした。
ラストのサーシス演説シーンとかめちゃめちゃイライラしましたからね。読者をしっかりイライラさせてくれる、ほんと良く出来たヒール役です。ただの二股じゃなく、ヴィオラを上げてカレンを下げる比較発言とかほんとだめ。あと、全体的に自分を正当化してる感むり
そんなサーシスのダメさが、ヴィオラとカレン両方からダメ出しされるオチは、ちゃんとしていてスカッとしました。今後もうんと苦しむところが読みたい
いやほんと、旦那様、2巻以降で挽回できるの!?