読書感想文:『わたし、二番目の彼女でいいから』1巻【書評・ラノベ】

『わたし、二番目の彼女でいいから』1巻はどんなラノベ?

電撃文庫公式サイトより引用
あらすじ

お互いを「二番目に好き」な、桐島くんと早坂さんが、「もし、どちらかが一番に好きな相手と付き合えたら関係を解消しよう」という約束で付き合い始める。しかし、恋愛感情とはそう簡単に割り切れるものではなく、ものすごくとんでもなくやばいことになっていく(語彙力)。

鮪田スコア

97点 ★★★★★★★★★☆

『わたし、二番目の彼女でいいから』1巻を読んでみた!(※ネタばれあり)

なんかもう、めちゃくちゃな面白さでした。
怒涛のように惜しみなく面白さばっかりじゃんじゃか流れ込んできて、まるで娯楽の濁流
電撃文庫と思えないえっちさ、物語のスピード感、テンプレにはまらない展開。今「なにか面白いラノベおしえて」って聞かれたらこれです。近年でダントツと思います。

すごい細かくなるんだけど、読みながらリアルタイムであれこれメモしてたので、ラノベ実況していきます。

[kindle 12%]
早坂さんのお見舞いに行って、一緒のお布団に入って、キスに至るまで、とんでもないスピード感! お布団の中の湿っぽい空気すら感じられるえっちさのディティール「なんだこれなんだこれ」と引き込まれました。

[kindle 14%]
カラオケで早坂さんに群がるモブ男子たちがいいかんじに浅ましく、徹底して当て馬描写されてることで相対的に主人公の桐島くんがラノベ主人公然としてくる構造です。衆目の中で地味男子の桐島くんを庇う美少女の早坂さんという構図は、いわゆる「なんであいつが」という、周囲に観測される快感ギミック

[kindle 21%]
カラオケでの桐島くんの気遣いをちゃんと目撃していた橘さん。「ヒロインは主人公の善行を余さず見ている」の法則。これも鉄板のラノベ快感ギミックで隙が無いです。

[kindle 32%]
「早坂さんが先輩と抱き合ったり、キスしてるところを想像してみて」
随所でNTR描写が機能している本作ですが、NTR苦手っていう人でもだいじょうぶなところを見極めてます。ギリギリで読者が痛々しさを感じるか感じないかという匙加減が絶妙で、むしろ、ふだんNTR苦手って思って避けてる人ほど毒が回りやすいです。(私です)

[kindle 43%]
桐島くんにラブラブ状態な早坂さんを目撃してしまった生徒会長のセリフ「俺の知ってる早坂じゃないわ。だって今、完全に女の顔になってるもん」が、観測快感ギミックのお手本のような見事さ。

[kindle 51%]
体操着盗難事件を解決してくれたのは桐島くんだとすでに知ってる早坂さん。「すでに知ってる」ところがいいです。「えっ、もしかして桐島くんが解決してくれたの?」みたいなシーンをわざわざ描写しないところがこのラノベのスピード感です。そして繰り返しますが、主人公の善行をヒロインは余さず知っているのです。突拍子もないお話に見えて、これでもかと詰め込まれているのはちゃんとラノベ定番ギミックなんですよね。

ここまで、十二分に面白いんですが、このへんから早坂さんの雌スイッチが入った描写が増えてきて、さらに加速度的に面白くなってきます。めっちゃおっぱい触らせようとしてきます。おっぱい触らせようとしてるところにしっかり登場する橘さん。むり面白すぎる。私のように下品な人間には抗えない低俗な(誉め言葉)展開が畳みかけてきます。いやこの娯楽の洪水に抗えるひといるの?
さあ後半へ。

[kindle 60%]
整髪料の香りをめぐる攻防。「これ挑戦状だよね」煽る橘さん「全然いいんだけどね!」強がる早坂さん。スピード感あるアクション&リアクションにページをめくる手が止まらない。

[kindle 69%]
桐島くんと早坂さんが「嫉妬」を考察する会話。桐島くんを嫉妬させようとする早坂さんがウッキウキで可愛いです。「触られた」などと赤裸々に語った最後の「そのたびに嬉しかったんだよ」という死体蹴り。さっきも書いたけど、読者がギリギリ耐えられるNTR描写がバランスよくて痛気持ちいいです。桐島くんが嫉妬しても悶々とせずに「もう死にそうだよ」と早坂さんに明確に伝えて、早坂さんがその様子を喜んだり「私ももっと嫉妬したい」と催促する描写で読者の溜飲が下がるから、NTRが痛々しくなり過ぎないんですね。

[kindle 87%]
この四角関係ってじつは平等じゃなくて、ヒロイン二人は桐島くんにベタ惚れじゃないですか。物語的には先輩は異分子なので本来四角関係と言えないんですが、

橘さんは家の事情で先輩に負い目がある
・先輩は家の事情関係なく橘さんが好き
・橘さんは桐島くん以外の男子に触れない
・先輩と桐島くんには信頼関係がある


こういう設定がひとつずつ上手に機能して、先輩含めた4人のパワーバランスが取れてるんですね。
じっさいこの終盤では、「橘さんは先輩とくっついて、早坂さんは桐島くんとくっつく」という構図が、読者にとっても「それほど悪くない結末」として提示されていて巧妙です。読者だって、ずっと不安定な関係の描写が続くと疲れちゃいますから。インターバルの意味でも、両カップル成立がまんざらでもない感じな自主制作映画撮影風景はホッとします。(ぜんぶ作者さんの手のひらの上だったわけですが)
桐島くんのそっけない態度におこな橘さんが、いい息抜きコメディしてるのもインターバル度高いです。死体役の桐島くんを殴る橘さん「本当に死んでるのかしら?えい、えい」可愛い。死体に熱湯をかける橘さん「熱くないでしょうね。だって、死んでるんですものね。うふふふ」可愛い。

タイトル回収の最後の1行まで隙が無い超最新型娯楽凝縮ラノベでした。
徹底してパワーバランスに配慮された二人の弩級ヒロインは、読者がどちらかを好きになりかけると他方がぶわっと可愛さを発揮してきたりと、作者さんの思い通りに転がされます
全編通して暴力的に詰め込まれた娯楽量に圧倒されて溺れました。

ていうかいいの?
電撃文庫でこんなえっちな本出していいの?
いいんだ!(ありがとう)